「古墳の語る古代史」
(白石太一郎,岩波現代文庫)
書名の通り本書は古墳の全国的な調査結果から日本国成立当時の歴史を解明しようとしたものである.私の家は北関東の古墳群の真只中にある、というと少しオーバーだが車で2時間も走れば10個ほどの古墳を見てまわることができる.仁徳天皇陵などと違って気軽に登って眺められるところが地方の古墳の楽しいところだ.そういうこともあって先日,本屋で何気なく目に入った本書を買って読んでみた結果,ますます古墳がおもしろくなってきたところである.
本書によると現代の考古学では副葬品の観察とか年輪年代学のおかげで一つ一つの古墳の製作年代をかなり正確に推定できる.そこで全国数百個の古墳を年代順に並べてみると,初期は小さく、だんだん大きくなり,そしてまた小さくなることがわかった.そして壬申の乱あたりになると消滅してしまう.ところが小さくなり始めた時代でも近畿地方の少数の古墳だけはやたらに大きい.これは大和政権,つまり天皇の先祖の権力強化を物語っている.さらに面白いことに,この時代でも関東地方ではまだ大きな古墳が作られていたという.そうしてみると私の家の近くの長さ100mほどの前方後円式などもそのひとつといえるのだろう.これはなぜか.たぶんまだ大和の権力が十分に及ばない関東でとりあえず豪族をおだてて手なずけるために大きな古墳を許したのではないかというのが一説である.
一方初期の古墳を調べると近畿地方で強い権力が出てきた年代もかなり正確に推定でき、さらにはこれこそ邪馬台国の卑弥呼の墓ではないか,という古墳まで見当がついているのだそうだ.
といったようなわけで,本書を読むと先週落葉を踏んで頂上に登ってきた近所の古墳から推理が卑弥呼にまでつながりそうな気がしてきていささか興奮を禁じえない.もっとも,著者は学者として慎重な表現をしているから,上記は私のきわめて不正確な理解と表現によっており,誤読もあるかもしれない.興味のある方はご自分で原書をお読みください.
(くまそ)
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